デスクワーカーを中心に日本人なら誰しもが経験するほど身近な症状と言っても過言ではない“肩こり”。
誰もが一度は悩むはずなのに、意外とそのメカニズムって知らないのではないでしょうか?
「みんな悩んでいるから!」とそのまま症状を放置していると、実は取り返しのつかないことに…。
というわけで今回は、肩こりについて医師に話を伺いました。
- <三戸先生のプロフィール>
- 三戸 一晃(みと かずあき)
- 専門は外科、整形外科外傷・一般、骨粗鬆症。
2003年慶應義塾大学医学部卒業。同年、同大整形外科学教室入局。
その後、数々の3次救急病院にて研修を行った。2016年より済生会横浜市東部病院医長、2017年より藤田医科大学講師。現在はスタンフォード大学整形外科に所属。
(経歴は2022年9月現在)
三戸先生
肩こりの原因には、使い過ぎによる筋肉疲労や加齢によるもの、首にある神経や筋肉の損傷によるもの、さらには狭心症などの内科的な病気によって生じるものなどまで様々です。
歯の咬み合わせが悪い、視力が低下している、生活上の精神的ストレスなども原因になることがあるので、いかに肩こりは起こりやすいものであるか、また多くの人に起こりえるものかがわかると思います。
首にけがや病気などがない場合、多くの方が悩んでいる肩こりの原因は、筋肉疲労によるものです。これは日常生活の中で首周辺に負担がかかることで生じます。
例えば、デスクワークで長時間同じ姿勢をとっている、かばんや荷物を抱えることが多い、といったことが肩こりを訴える患者さんの多くで見られます。これらの場合、痛みを伴う部位では慢性的に血流が低下していることが言われています。
三戸先生
肩こりとは、首の後ろから背中、両肩付近までいわゆる僧帽筋の部位が凝り固まって生じる痛みのことを言います。
首に負担がかかる動作を続けていると、長い間首の筋肉が緊張(筋緊張)していることになります。
こういった筋緊張が続くと、それにより生じた疲労物質が次第に溜まってゆき、結果的に首の筋肉が硬くなってしまいます。
筋肉が硬くなった部位では血管の圧迫により血行不良が生じ、疲労物質が除去されにくくなります。そうすると栄養分の供給も少なくなり、さらに疲労物質が溜まってゆくという悪循環に陥ってしまいます。
日常生活の中に原因があっても、多くの方は首を休ませる時間がとれなかったり、冷えた場所にいることが多いなど、複数のマイナス要因が重なり、ますます血行悪化・症状悪化の一途をたどっているケースが多くみられます。
三戸先生
血行不良の状態が長く続けば、それ自体が痛みを生じる原因になります。また、これを放置していると場合によっては末梢神経が障害され、しびれなどの症状がでることがあります。
このような神経の障害がさらに首の筋緊張を高め、その結果として肩こりが生じるといった悪循環の一助になってしまうこともあります。
一方、血行不良によって首が硬くなってしまうと、頸椎捻挫などの首のけがをしやすくなることもあります。
さらには、肩こりによる首の痛みによって頭痛など、他の部位の症状を誘発することもあります。痛みで物事に集中できなくなったり、自力での移動が困難になるなど、これまで普通に過ごしてきた日常生活に支障をきたすようになってくることが考えられます。
三戸先生
肩こりの原因は、日常生活の中に潜んでいることが多いので、まずご自分の生活を見直すことから始めましょう。
積極的にリラックスできる時間を取り入れて筋緊張の緩和に努めることも大切です。
また、血行不良を改善するためには、首回りを冷やさないようにし、温めることを心がけます。
三戸先生
磁気の身体に対する作用に関しては、良い効果があるとする報告が多く見られます。例えば、磁気を当てることで鎮痛効果があり、治癒期間を短縮できたとするものや、神経の再生、骨折治癒に効果があったとする報告もあります。
一方、磁気によって血行の改善が得られるかについては、まだまだ研究途上でどちらともいえないというのが実際のところ(※1)ではありますが、1996年の研究で、日本ペインクリニック学会誌に発表された磁気の血流改善に対する有用性を客観的データに基づき支持した論文の内容を紹介します。
肩こりの患者さん95名に市販の磁気治療器を使い、貼付部位の温度・血流を測定した結果、使用から24時間で鎮痛効果が現れ、42時間で深部温度が上昇し、72時間目に明らかな血流改善が見られたとするものでした(※2)。
今後もこのような磁気の作用に関する研究が進み、磁気の素晴らしい効果がますます明らかになってくることに期待したいです。
※1.McKay et al. A literature review: the effects of magnetic field exposure on blood flow and blood vessels in the microvasculature. Bioelectromagnetics 2007
※2.金井ら、肩こりに対する磁気による治療効果の検討。日本ペインクリニック学会誌。1996
では最後に肩こりのセルフケアについて注意することなどありますか?
三戸先生
肩こりには様々なタイプがあることに留意すべきです。
ほとんどの肩こりに対してはマッサージや入浴で温めるなどのセルフケアが効果的であると思われます。しかし、痛みが生じて間もない急性期では冷やす方が良いこともあります。
ただ、首の骨である頸椎の疾患が隠れていたり、心臓疾患などの重篤な内科的疾患によるものであった場合、セルフケアが無効であるばかりではなく、早期に医療機関を受診しなくてはならないこともあります。
したがって痛みが強い場合やセルフケアが無効な場合は主治医に相談した方が安心です。
また当然ながら、セルフケアのやりすぎも禁物です。セルフケアを上手に日々の生活に取り入れて肩こりとうまく付き合っていきましょう。
以上、三戸先生の“肩こり”についてのインタビューでした。