現代社会において、デスクワークやスマートフォンの使用時間が増える中で、「ストレートネック」という言葉を耳にするようになりました。
今回はストレートネックの原因や症状、改善方法や予防策について医師に話を伺いました。
- <熊坂先生のプロフィール>
- 熊坂 明彦
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平成5年3月:防衛医科大学校卒業
平成5年4月~平成21年3月:自衛隊医官として勤務
平成21年4月~平成28年1月:企業の専属産業医、回復期リハビリ病棟のリハビリテーション科医などを歴任
平成28年2月~:医療法人松田会 八木山整形外科クリニック院長として勤務
資格:日本体育協会公認スポーツドクター
所属学会:日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会
現在は、慢性疼痛・スポーツ障害・骨粗鬆症などの運動器疾患に対して、リハビリテーションを主とした治療を行い、地域医療に関わる
目次
ストレートネックの原因と症状
ストレートネックは、近年増加している首における悩み症状の一つです。頸椎と呼ばれる首の骨は7つあり本来は緩やかなカーブを描きながら繋がっています(前弯;ぜんわん)。それらが日常生活の中で歪み、真っ直ぐに並ぶようになってしまった状態を主にストレートネック(前弯消失)と呼んでいます。
ストレートネックは日常的に首を前かがみにした姿勢をとることで発生しやすく、その原因の一つにスマートフォンやパソコンなどのデバイスの普及と、それを長時間にわたって使用することでの過負荷などが挙げられます。パソコンやスマートフォンは自分の頭より低いところで見るのが一般的でその際に、首が前かがみとなってしまうのです。
首の正しいカーブが失われることで、頭の位置が前方になり、それらを支える首の筋肉や骨格に負担がかかり、さまざまな不具合が発生します。
その症状には首や肩のこり・上肢や手指のしびれ・頭痛などがあり、ひどい場合は吐き気やめまいなども引き起こします。また、ストレートネックによって骨の位置が変わることで首や肩の筋肉が圧迫、または強い負荷がかかることで血行不良にもなってしまうのです。
ストレートネックと血行の関係
ストレートネックが血行に与える影響は次のようなものがあります。
首の骨の位置が変わることで本来保たれていたスペースがなくなり血管や神経が圧迫され血液の流れが悪くなります。また、首の骨の位置が変わってしまった結果、頭を支える筋肉の負荷が大きくなり凝り固まり血液の流れが悪くなります。この場合は首だけでなく頭を支える肩や背中でも血行不良が起こる可能性があります。頭の位置が数センチ前に傾くだけで支える筋肉の負荷は何キロも増大すると言われています。
血行が悪くなることは身体に様々な不調をもたらします。血液は色々な要素を細胞に運ぶ役割がありますが、血流が悪いと栄養や酸素が十分に行き渡らず筋肉疲労の回復が妨げられ慢性的な凝りやダルさを引き起こすことになります。老廃物の排出も血液が担っているため、それらが十分に行われないとむくみや自律神経の乱れを引き起こします。
自律神経の乱れは頭痛やめまい、吐き気、生理不順の要因でもあり、身体全体の不調につながります。特に首には脳につながる太い血管があり、首の血流が悪くなると脳に十分な栄養や酸素が運べなくなります。その結果、集中力の低下、ねむけ、強いストレスなどの症状が引き起こされる可能性もあります。
ストレートネックの改善、予防方法
ストレートネックは日常生活の姿勢によるものであるため、意識して姿勢を正すことが重要です。以下で意識したいポイントを何点か挙げてみます。
・猫背の解消
背中を丸めると頭を前方に押し出され、下を向くような姿勢を誘発しがちです。胸を張り肩甲骨をギュッと寄せ猫背にならないようにする(胸郭を左右に開くようにする)ことで自然と頭の位置も正しい場所になります。日常的に猫背になってしまう方は胸筋を鍛えることも効果的です。胸の筋肉が張り出すことで自然と健康的な姿勢が保たれます。
・PC、スマートフォンを見るときに一工夫
PCの画面は目線の高さに置くようにしましょう。下を向くことなく真っ直ぐ画面を見ることで首は自然なカーブをキープできます。具体的にはPCアームを導入し高さを調整したり、モニターの下に高さ調整用の台を設置するとよいかと思います。ノートPCは利用の際に俯いてしまいがちなので、モニターに出力して作業するなどの工夫も効果的です。スマートフォンを利用する際はできるだけ長時間にならないよう気をつけ、使用の合間に正面を見る時間を作るなどして首を休憩させることが重要です。
・血行の改善
既に首や肩、背中に負荷がかかっており、凝りやダルさを感じる場合は血行を改善することを心がけると良いでしょう。筋肉を伸ばすようなストレッチは更に筋肉に負荷をかけてしまうため避けたほうがよいです。40度程度の蒸しタオルを凝った部分に当てる、筋肉を軽く指で揺すり緩めてあげるなどしましょう。また磁気は血行を促進する効果が認められており、磁気商品の利用も良いかと思います。磁気ネックレスなどは常時身につけられるという点で、普通に生活しながら特に意識することなく血行促進が期待できることがメリットです。
ストレートネックの予防策、改善策を行っても一向に改善しない場合や、日常生活に支障が出るような強い痛みが発生する場合は早めに整形外科での診察を行いましょう。ストレートネックは悪化すると頸椎ヘルニアと診断される場合もあり、手術などの外科的治療を必要とする場合もあります。
首周りの凝りや違和感を訴える人はスマートフォンの利用やリモートワークの普及で年々多くなっている印象があります。そこまで気にならないからと放置していると、ストレートネックはより深刻な状況になっていき慢性的な体調不良に繋がっていきます。日常的な正しい姿勢と、積極的な血行改善。まずその2つを意識して生活することで脱ストレートネックを目指してみては如何でしょうか。